改定幅全体の抑制(引き下げ)、回数の増えた診療行為に1992年時点では日本はアメリカよりも低く、ドイツ、フランスよりも高いという結果でしたが、1999年のアメリカで処方されている薬を基準においた調査では、日本が最も高い結果となっていました。
ところで、内外格差は薬ではなく、パースメーカーなどの医療機器において最初に問題になりました。
これらの機器、機材の公定価格を決めるうえで碑米、英乃独、仏における価格が参照され、これら4カ国の平均価格の5倍以下になるように改められ、価格も下がりました。
上記のルールを薬についても導入しましたところ、逆にアメリカにおける高い価格に引っ張られて、新薬の薬価が高く設定されるようになりました。
アメリカで高い理由は、外来の処方薬は一般に保険給付の対象ではないので、患者が対象では競争原理が働かないことにありますが、規制がないことによって後発品の処方が主体の半分以上になっている面にも着目しなければいけません。
以上のように日本の薬価は高いか低いかの結論を簡単に出すことはできませんが、日本のように薬価を統制している国では新薬の値段は低いのが一般的です。
これに対して、アメリカのように規制していない国では先発品は高く、後発品は安いといえますが対する個別的対応、薬価の引き下げによって、日本の医療費は低い水準に留めることに成功しています。
OECDによる各国の統計データをできるだけ標準化し、医療費のGDP対比と、1人当たり医療費の購買力平価(各国における物価の相違を補正した為替レートよりも安定した換算)の2003年の値を示しており、1人当たりの医療費で日本は主要先進6カ国の中で最も低くなっています。
なお、2002年まではイギリスが最も低かったのですが、B首相がEUのレベルまで引き上げることを公約し、2000年から2008年まで実質年率7%の医療費の増加策を採用したために、日本と最下位が入れ替わっています。
次に、厚生労働省の「国民医療費」を用いて、医療費とGDPのそれぞれの伸び率、および診療報酬改定率の1980年から2002年の推移を見ます(ただし、2000年の介護保険への移管の影響を除外するため、移管した相当部分を加えて表示)。
なお、「国民医療費」には、お産の費用(お産は傷病でなく、保険給付の対象ではない)、差額ベッド代、補助金などが含まれていないので、OECDの値よりも2割程度低くなっています。
ここで注目すべき第1の点は、1980年代は医療費とGDPはほぼ同じペースで伸びていたため、医療費のGDPに占める割合も一定であったことです。
しかし、バブルがはじけた1990年代になると、医療費の伸び率も低下しましたが、GDPの伸び率がより低下したため、GDPに占める割合は大きくなっています。
第2に、医療費の伸び率と、診療報酬の改定率は連動しており、両者の相関は高いことです。
このような診療報酬の改定による上昇率は毎年平均0.46%であり、平均1.46%の消費者物価より低くなっています。
つまり、診療報酬は医療費を抑えるうえで大きく貢献しています。
第3に、調査した23年間における医療費の伸び率は、毎年平均5%であり、この5%のうちの約2%が高齢化と人口増で、両者を合計した割合はほぼ一定であることです。
最近では人口増はなく、ほとんどが高齢化によります。
これら人口要因と診療報酬の改定率によって、医療費の伸び率の半分程度は説明できますが、残り半分については残澄ですので、分析できません。
しかし、その大部分が技術進歩によるものであると推測されます。
たとえば、昔は単純X線であったのが、CT、MRIに診断機器が代わったので、これらの撮影料が下がっても、医療費としては増加することになります。
最後に、2002年以降の動きを見ると、2002年には診療報酬のマイナス2.7%改定があり、医療費はマイナス0.7%と初めて実質的に減少しました。
その後、医療費は2003年に2.1%、2004年の0%改定の時には2.2%の伸び率に留まっており、高齢化による増加率にほぼ等しくなっています。
確かに2005年には3.1%伸びましたが、2006年度の改定率はマイナス3.16%であったので、医療費が再び減少する可能性が高いのです。
したがって、今後ともマイナス改定を継続すれば、新たな施策を導入しなくても医療費の増加率を、高齢化を加味したGDPの成長率の範囲内に留めることができるでしょう。
しかしながら、医療費は人口増と高齢化で2%増のほか、技術進歩等によってそれ以上に増加してきた点に着目するべきです。
ちなみに、アメリカでは医療技術の進歩だけで、医療費はGDPの増加率を1%上回っており、高齢化を加味すると2075年には医療費がGDPの38%に達すると予測されています。
こうした技術進歩等による増加を、診療報酬の引き下げで今後とも吸収するためには、医療従事者の所得水準を持続的に引き下げなければなりません。
しかし、それでは好景気が持続すれば、人材の確保は次第に難しくなるでしょう。
なお、1999年から2004年の5年間だけを見ると、確かに医療費の伸び率が人件費の伸び率を上回っていますが、1998年以前まで遡ると異なる様相を呈します。
私らが行った1979〜93年の価格指数を用いた研究では、この間の薬剤費を除いた診療報酬本体の毎年の伸び率が2.81%に留まったのに対して、賃金指数は3.34%でした。
つまり、価格を規制しますと、JRの乗車賃に見られるように、景気の変動を受けにくくなるといえましよう。
診療報酬によって医療費は抑制されてきましたが、次の弊害に着目しなければなりません。
第1に、一般的な傾向として、コストに占める薬剤などの材料費、および設備費の割合が高い診療行為であれば黒字、人件費の部分が大きい場合には赤字になる体質となっている傾向です。
なぜなら、薬剤費などの材料費や設備機器の製造コストは競争原理によって下がる構造にあるので、保険で償還される価格と市場価格との間にどうしても元離が生じやすく、かつてほどでないにしても、そこから差益を得ることができるからです。
一方人件費については、これまで医師、看護師の有資格者が絶対的に不足する傾向にあり、また医療以外の他の職業の給与との見合いで、給与の引き上げを抑制することも困難でした。
さらに、材料の使用に付随して発生する処方や検査の指示書を書くのに要する時間は短縮できても、人件費が大きな割合を構成する手術などに要する時間は短縮できません。
そのため後者の場合はコスト削減が難しく、現在の保険点数では赤字になる傾向があります。
それが公的病院に対する補助金を正当化させています。
「薬づけ、検査づけ医療」と糾弾される状態は、このような価格構造のゆがみにその元凶があるといえましよう。
しかしながら、逆にアメリカのように手術料が高いと、材料費の差益を介して間接的に収入を得るよりも、手術によって直接に収入を確保した方が収益性がよいので、「手術づけ医療」が問題となっています(アメリカの人口当たりの手術件数は日本の3倍と推定)。
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